Ｆａｔｅ／ｓｔａｙ ｎｉｇｈｔ − ショート・ショート・ストーリー
『衛宮士郎と遠坂凛のバカップル日記』 【２００４年９月分】
【平成１６年９月２６日分】
《あくま、禁断の世界に踏み込む!? のこと》
「衛宮、目を覚ませ。お主はあの女狐に誑かされておるのだ！」
「そんなことはないぞ。遠坂は本当にいいヤツなんだから」
「ならば、俺の目を真正面から見て、そう断言できると云うのか？」
「ああ、遠坂のことだけは、いくら一成の忠告でも聞き入れられないからな」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………スマン、まだ衛宮を想う俺の気持ちが足りなかったようだ。
しかし、これは俺が女狐に負けたと云う意味では決してないぞ。
衛宮に正気を取り戻させるため、ここは一時撤退し、修行し直してくるだけだ」
「ちょ!? な、なに云ってんだ、一成!?
おい、そんな爽やかに背中を向けて立ち去られても、俺はどんな反応をしたら」
「朝っぱらから相変わらずご両人、仲の宜しいことで。
これじゃあ、遠坂が二人の仲を妬いても無理はないわよね」
「み、美綴！ その、誤解を招くような発言はやめてくれ。
こと遠坂絡みのこととなると、一成はちょっと感情表現が変になるだけであって」
「ふーん、そうなの。
それなら衛宮くんは、仲睦まじく視線を交わしあって、何を云いたかったのかしら？」
「と、遠坂まで。一体いつ……から……？」
「そうね、『衛宮、目を覚ませ』のくだりから、かしら？」
「最初からいたって事じゃないか。
それだったら分かるだろう？ 今のは一成が勝手に盛り上がっていただけで。
……大体俺は至ってノーマルだし、そんなこと遠坂が一番知ってる筈だろう」
「？？？ よく分からないのだけど、ノーマルって？」
「…………や、分からないんならそれでいいんだ。
決して俺はそんな趣味がある訳じゃないし、一成だって、きっと」
「ま、始業のベルも鳴ることだし、今日のところはこれくらいで勘弁してやろうか」
「ちょっと待ちなさいよ、綾子。まだわたしは士郎に聞きたいことが……」
「あとあと。遠坂の知りたいことなら、あたしがちゃんと教えて上げるから」
「待て、美綴。その遠坂ばりの“あくまな笑顔”は一体なんなんだ!?」
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「……俄には信じられないし、信じたくない話なんだけれど」
「遠坂が知りたいって云うから、わざわざ分かりやすく同人誌まで見せてやったのに」
「大体美綴さんは何故こんなモノを持っているのかしら？ まさか……」
「これはうちの部活の一年が“今日明日荷物検査があるから”って預かっただけだよ。
丁度グットタイミング、と云うか、バットタイミングだったかな？」
「ま、まさか、柳洞くん……本当に士郎のことを……」
「さあ？ その辺は柳洞に直接訊いてみるしかないだろうけれど。
そうそう、このＣＤドラマなんかはその辺の男の子の心理も描かれているらしい。
流石に学園内だとマズイから、帰って聴いてみたらどう？」
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「…………………………」
「どうしたんだ、遠坂？ ヘッドホンしたまま硬直して」
「し、士郎!? どうして、アンタがなんでうちにいるのよっ!?」
「どうして、って云われても、今日は遠坂の魔術講義の予定日だったと思うんだが。
人の気配はあるのに、何回呼び鈴を押しても遠坂が出てこないから俺、心配になって。
それより大丈夫なのか？ さっきから魂を吸い取られたみたいに硬直してたけど」
「な、なんでもない。なんでもないわよ」
「さっきまで顔面蒼白だったのに、突然そんなに顔を紅潮させて何でもない訳ないだろ？
熱でもあるんじゃないのか？ どれどれ」
「いい、本当に大丈夫だから」
「偶には俺にも遠坂のことを心配させてくれよ。
あ、遠坂、悪い。ちょっとおでこで熱を測るから、ヘッドホンを」
「!? 待った、士郎。まだわたしＣＤ、止めてないから、もうちょっとだけ待っ……」
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（無情にもＣＤからヘッドホンが外れ、大音量で流れる男性声優の喘ぎ声）
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「…………………………」
「…………………………」
「…………………………あのー、そのー、なんだ。
たとえ遠坂がどんな趣味をしてても、俺の遠坂への気持ちは変わらないぞ。
ただ流石にリアルで“こういう関係”を、俺と一成の間に求められても困るんだが」
「……………………………………………………」
翌日、本物の“あくまな笑顔”を浮かべ、美綴と一成の前に現れる凛にどっとはらいw。
【平成１６年９月２１日分】
《士郎、髪結いの亭主となる？ のこと》
「―――解析、終了！ ふう、これで週末のノルマは終了、と。
どうだった、遠坂？ ……って、どうしたんだ、そんなにぼーっとして？」
「ううん、なんだか士郎、身長だけじゃなくて、髪も随分伸びたなって、思ってただけよ」
「癖毛だから伸ばすと、後始末が大変だから短めにしてるんだけどな。
でも遠坂がそう云うんだったら、じゃあ、早速」
「ん、別にそう云うつもりじゃなかったんだけど―――って、何してるのよ、士郎!?」
「いや、ハサミと鏡と、下に敷く新聞紙を探しているだけだけど」
「ちょ、ちょっと、まさか士郎、アンタ、自分で髪を切ってるの!?」
「最近はずっとそうかな？ 全体的に短めにするだけだから、そう難しくはないし。
もっと子供の頃には、切嗣や藤ねぇにやって貰ってたんだけど、
藤ねぇに一度勢い余って文字通りの“虎刈り”にされちまってからは、自分でやるようになって。
―――お、あったあった。遠坂、明日は休みだから今日は泊まっていくんだろ？
こっちは暫くかかると思うから、先に風呂に入っちまっててくれ」
「……わたしが切って上げましょうか？」
「えっ!?」
「だから、わたしがやってあげるって云ってるの！
まさか藤村先生はＯＫで、師匠兼恋人のわたしは駄目だなんて云わないわよね？」
「そ、そんなことは云わないけど、遠坂にハサミって、随分微妙な組み合わせだな、って」
「……何か聞き捨てならない台詞を聞いた聞いたような気がするけれど、まあいいわ。
さ、士郎、大人しくこっちに座りなさいよ」
「そ、そんな“あくまな笑顔”を浮かべて云われたら、俺に拒否する権利なんて……」
・
シャキシャキシャキシャキ
・
「随分手慣れてるんだな。まさか、遠坂も自分でやったことあるのか？」
「いくら万年金欠だからって云って、女の子がそんな真似する筈ないでしょ！
それにしても士郎の髪って、本当に癖が強いし、赤味がかってるわよね」
「―――ん、子供の頃の記憶はないけど、どうやら生まれつきみたいだな。
だけど、うちの学園に『天然でも赤毛は校則違反だから黒く染めてこい！』
なんて云う教師がいなくて助かったよ」
「そうね。染めると髪が傷むし、それに……」
「元の色が抜けて銀髪にでもなっちまったら、ますますアイツみたいに、
……って、ゴ、ゴメン、遠坂」
「―――いいわよ、どんな姿になろうとも、士郎は士郎なんだし。
それにわたしが士郎の隣にいる限り、士郎は絶対に幸せになるんだから！」
「遠坂……そんなに後ろから強く抱きしめられたら、遠坂にも髪の毛が……」
「それじゃあ、衛宮くんには責任とって貰おうかしら？」
「なっ!?」
「魔術の基本は等価交換。わたしが士郎を綺麗にしてあげる代わりに、
士郎はわたしがいつまでも輝いていられるようにしてくれる筈だもの。
思いっきり期待してるわよ、衛宮くん？」
「―――あ、ああ。絶対に俺、遠坂の期待を裏切らないように頑張るから。
だから、今日は遠坂を！」
「ば、馬鹿っ！ 切り終わるまで、もうちっょと待ちなさいよ！」
この後は、お風呂場でＬＯＶＥ ＳＯＮＧな二人にどっとはらい。
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後日談。休み明けの月曜の朝。
「―――あー、なんだ、衛宮。
その、とても独創的と云うか、とても前衛的と云うか、表現しがたい髪型は……一体？」
「……頼む、一成。せめてもの情けだ。この件についてのコメントは勘弁してくれ。
昨日平謝りして“今日一日だけ”ということで、なんとか手を打って貰ったんだから」
「な、なにが『身体の隅々まで綺麗にしてやるから』よ、このケダモノっ！」
【平成１６年９月１８日分】
またも美綴と賭をして、クラス対抗で勝負することになった凛。
競技も終盤にさしかかり、激しい鍔迫り合いを演じる中、借り物競走に登場した凛は、体育祭実行委員である美綴の陰謀に嵌られて・・・。
《あくま、体育祭の借り物競走に出走するのこと》
「遠坂さん、一等おめでとうございます」
「ええ、有り難うございます。これでまたＡ組を突き放せそうですわ、美綴さん」
「それでは“お題”を確認させて頂きますね。
遠坂さんが引いたお題は“カップル”ですね。
おや、遠坂さんが連れてきたのは衛宮君だけのようですが、これは一体？
遠坂さんと衛宮君の二人でカップル、ということで宜しいのでしょうか？」
「と、遠坂!?」
「……(ﾎﾞｿｯ)だから士郎まで赤くなるんじゃないわよ、綾子の思う壺でしょ!?」
「そう云えば遠坂さん、お題を見て一瞬硬直されたような気がしましたけれど？」
「こんな場所ですもの。一般的な意味でのカップルなんていませんでしょう？
それで一瞬だけ考え込んでしまって。
ですけど辞書を引けば“男女の二人連れ”イコール“カップル”ですよね？」
「ええ、勿論その通りですけれど、何故遠坂さんがそういう発想をされたのかと。
別に“若いカップル限定”なんて何処にも書いてませんよね？
今日は日曜ですから“夫婦”でお見えのご家族の方も多いですし。
それに数多い男子生徒の中で何故、衛宮君を遠坂さんは選ばれたのですか？」
「……は、謀ったわね、綾子」
「いい加減に素直になりなよ、遠坂。全校生徒に知って貰う丁度いい機会なんだし。
そんなことより、本当にまだ気が付いてないの？」
「気が付くって、何をよ？」
「はあ、これは本当に重症だね。衛宮、説明してやって」
「……遠坂、隠してたつもりの遠坂には悪いんだが……全部バレバレなんだって」
「な、なんでよ!?」
「一成や美綴に云わせると態度でバレバレらしいんだけど、それ以前に藤ねぇが」
「藤村先生がなんなのよ!?」
「いや、藤ねぇが校内で知り合いを見つけるたびに、
家での俺たちのことを事細かく話した上“なんとかしてよー”と吼えてるみたいで」
「なっ!?」
「そうそう、衛宮と遠坂が夕食を交互に作りあってるとか、縁側でキスしてたとか」
「ど、どうしてそれを!?」
「ま、待った、遠坂。マイクが……」
「えっ、後のはカマかけたつもりだったんだけど。
なるほど、奥手な二人だと思ってたけど、やることはやってるんだ。ご馳走様」
「綾子、あんたねぇっ!?」
「あ、それからえ衛宮が云いかけたけど、今の全部マイクで校内に流れてるから宜しく」
「！」
全校生徒＆父兄の前で公認されるバカップルにどっとはらい。
【平成１６年９月３日分】
ぼりべやさんのＦａｔｅ特設コーナー８月３１日＆９月１日雑記分の、その後の士郎と凛ネタを。
いつものうっかりスキルで、士郎にガンドを撃ち込んでしまった凛は・・・。
・
《あくま、士郎のために民間療法を試すのこと》
「ううっ、酷い目にあった。
でもまあ、こうやって遠坂に素直に看病して貰える機会なんて、なかなかないしな」
「士郎、起きてる？ 入ってもいいかしら？
夕御飯、風邪に良く効きそうなものを作ってみたんだけど」
「ああ、起きてる。
ありがとう、遠坂……って、これは、一体？」
「“神仙粥”って云う餅米に生姜、ワケギの根を微塵切りにして酢を加えたものよ。
こっちは人参と玉葱のたっぷり入った温かい鶏肉のスープ。
で、こっちが大蒜のボイル焼きで、この真っ赤なのが唐辛子入りのもやし料理」
「いや、その辺はまだいいんだが……こちらの丸焦げになった黒い物体は？」
「蜜柑とイモリの黒焼きに決まってるじゃない。士郎の家では作らないの？」
「……各家庭、風邪の民間療法ってのはいろいろあるんだな。
それじゃあ、こっちの飲み物は？」
「右から卵酒に、蜂蜜入りの檸檬、くず湯に梅醤番茶。それと唐辛子入りの焼酎よ」
「そこまでなら理解できるんだが……こちらの湯飲みに梅干しと一緒に沈んでるのは……」
「ゴキブリよ」
「なっ!?」
「ゴキブリでも乾燥モノは漢方ではよく使われていて、血の滞りを除くのに最適なのよ。
ま、わたしは全部言峰から教わっただけで、実際に試したのは今日が初めてだけど」
「あ、あのエセ神父……」
「遠慮なんてしなくていいのよ。全部士郎のために作ったんだから」
「そ、それは嬉しいんだが……」
「ん？ ひょっとして衛宮くん、わたしに食べさせて貰いたいとか？」
「なっ!? なっ!? なっ!?」
「それなら遠慮せずに、最初から云えばいいのに。
はい、衛宮くん。口を開けて、アーーーンは？」
「ば、馬鹿っ！ そんな恥ずかしいこと出来るか！」
「？ ひょっとして熱かった？ じゃあ、フーッフーッフーッ！ これでいいでしょ？」
「…………遠坂、なんかさっきから変だぞ？」
「変って何処がよ？ わたしはいつもと全然変わらないわよ」
「だから、どうしてそんな無理をしようとするんだよ。
俺はこれっぽっちだって、怒ってなんていやしないのに」
「……し、仕方ないじゃない。こんな時にどうしたらいいかなんて分からないんだから！」
「……遠坂がいつも通りの遠坂でいてくれることが俺にとってどんな薬より薬なんだから。
だから、こんなことをしなくても十分遠坂の気持ちは……って!?」
「エヘヘ、キスしちゃった。
うん、それじゃあ、そういうの抜きで、今晩は士郎を温めてあげる！」
……果たして翌日“温めあいすぎて”二人して寝込む羽目になるバカップルにどっとはらい。
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