『原初の憧れ』 【公式人気投票 士凛支援ＳＳ】
「衛宮くんって、わたしの何処が好きだったのかしら？」
「ぶっ！」
「汚いわね、士郎っ！ あーあ、雑巾雑巾。
朝は頭が上手く働いていないんだから、余計な仕事を増やさないでくれる？」
「ば、馬鹿！ 遠坂が朝っぱらから、そんな馬鹿なことを訊くからだろ!?」
「へぇー、衛宮君にとって、わたしの何処が好きかってことは《馬鹿なこと》なんだ」
「そ、そんなわけ、ある筈がないだろう!?
だいたい何でそんな大切なことを過去形で云うんだよっ!? 今だって俺は誰より！」
「ああ、ごめんごめん。だからそういう意味じゃなくって。
士郎、確か《あの時》に前からわたしに憧れていたって云ったでしょ？
だから、そのきっかけはなんだったのかなって、何気なく思っただけ」
「………………」
「………………」
「………………」
「なに？ ひょっとして口では云えないような劣情を抱いてたんじゃないでしょうね!?」
「そ、そんなワケあるか！ そりゃあ、遠坂のことは綺麗だな、って思ってたけど」
「ふふん、それで？ ただわたしが綺麗だなっていう理由で憧れてたの？」
「そうだな、確かにそれは否定しないけど、それが唯一の正解ってワケじゃないと思う。
なんだろ？ 遠目から見るだけだったけど、きっと遠坂の鮮やかさが眩しかったんだ」
「それはわたしが眉目秀麗で、学業優秀、しかも運動神経も抜群だからってこと？」
「……ま、そうやって云い切れるところが確かに遠坂らしいと云えばらしいんだけどな」
「むっ、何よ！ その呆れたような云い方は！」
「事実を事実として正確に把握するのも魔術師の必須条件だろ？
でも、遠坂がいま云ったことも確かに事実だと思う。
俺にはどう足掻いたって、遠坂みたいな鮮やかな生き方は出来ない。
だから、遠坂凛の生き方は俺には眩しすぎて、それだからこそ憧れたんだと思う」
「……なに？ 士郎にとって《憧れ》ってのは《決して手に届かないもの》なわけ？」
「いや、そんなことはないぞ。
それを云ったら《正義の味方になる》って理想まで否定しちまうことになるからな。
ただそこに辿り着けたとしても、俺自身は《鮮やかなもの》にはなれないんだと思う。
俺は所詮ツギハギだらけの生き方しかできないんだろうから」
「！ ……だから！ そういうところがあんたが歪んでいるって云うの！」
「？ 何を怒ってるんだ、遠坂？ 俺、何か気に触るようなこと云ったか？」
「云ったわよ！ 気に触ったわよ！ ああ、もうコイツは本当になんでこんな！」
「スマン、俺には遠坂が云いたいことは一向に分からないんだが？」
「だから！ 士郎は《正義の味方》を貫くことが綺麗だから憧れたんでしょう？
なのにいざ正義の味方になろうとしたら、それがツギハギだらけだって何よ!?
自分自身がそんな矛盾を抱えこんでいるからツギハギみたいに見えるのよ！
なんで士郎自身が、誰の目から見ても《鮮やかなもの》になろうと思わないわけ!?」
「うっ、そりゃ遠坂の云う通りかもしれないけど、俺、そんなに器用じゃないし」
「この馬鹿っ！ 士郎がそんなんじゃ、わたしが…………で、いられないじゃない！」
「？ 遠坂、いま……なんて？」
「それくらい察しなさいよ、この唐変木！
―――だから…………で、いられないって云ったのよ！」
「スマン、遠坂。肝心なところがよく聞こえなかった。一体なんて云ったんだ？」
「ああっ！ だからっ！
士郎はわたしと一緒にきてくれるんでしょ！
だったら、士郎の道はわたしの道と重なっている筈じゃない！
それなら、わたしの隣にいる士郎が鮮やかでなければ、わたしが！
士郎が一番最初に想ってくれた《鮮やかな遠坂凛》でいられないでしょ!?」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………なによ？ なんか云いたいことがあるわけ、士郎は？」
「………………未熟な相棒だろうけれど―――これからも頼む、遠坂」
「当たり前でしょ！ わたしは一度口にしたことは絶対叶えてみせるんだから！
首根っこをひっ掴まえてでも、士郎をハッピーにしてやるんだからね！
これからも十分に覚悟してついてきなさいよっ！」
「ああ、やっぱり、俺の最初の印象は間違ってなかったな。
俺が好きになったのは紛れもなく《こんなにも鮮やかな遠坂凛》だ」
「!! …………こ、このぉっ、馬鹿士郎っ!!」
「な!? なんでそこで俺を殴るんだ!?」
「うるさい！ 朝っぱらからのろけていないで、さっさと学校に行くわよ！」
「先に話を振ったのは遠坂の方だろ？ それに俺、今の気持ちをそのまま……」
「だから！ そういう真っ直ぐに物言いはやめなさいって云うの！
ああ、こんな真っ赤な顔のまま、学校に行けるわけないでしょ、この馬鹿っ！」
――――幸せな、バカップルの朝の一コマ。
（終わり）
なんか凄まじく混沌としているようでしたので、公式への支援ＳＳ投下はしない予定でしたが、どうにも士凛派の押され具合が目立ち始めたので、柄にもない「バカップル物」での支援。
しかし公式への初投稿が、ネタは前からあったけど即興で書き上げたＳＳってのはどんなものだろ。
あと某「あかいあくまスレ」でも予想通り的確に突っ込まれましたけれど、
士郎が凛に対して淡い憧れを抱いていた理由ってのをもう少し深く掘り下げるべきだったですね。
何故だか他の凛ＳＳ書きの方は取り上げられていないみたいなんですけれど、実はこれって、結構重要な問題を含んでいるのではないでしょうか？
伽藍堂の士郎の心に《正義の味方になる》という理想以外の、純粋な憧れの感情を芽生えさせたものはなんだったのか。
ここを深く掘り下げると一本良いＳＳが書けるのではないかと。
というワケで・・・他の凛ＳＳ書きの皆さん、是非このネタでＳＳを書いて下さいまし＜他力本願(笑)。
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